コンプリート・シャーロック・ホームズ
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わめき声、叫び声、酔った歌でざわめく中、会合はお開きとなった。バーはまだ酔っ払いで混雑しており、多くの同志がそこに残った。任務を割り当てられた小隊は、通りに出た。注目を引かないように二、三人ずつに別れて歩道を歩いていった。身を切るように寒い夜だった。星で一杯の凍てついた空に半月が明るく輝いていた。男達は高い建物に面した庭で立ち止まり集合した。明るく輝く窓の間に「バーミッサ・ヘラルド」という社名が金の文字で掲げられていた。中からは印刷機のカチャカチャ言う音が聞こえてきた。

「お前はここだ」ボールドウィンはマクマードに言った。「お前は戸口に立って、道路を見張っていろ。アーサー・ウィルビーはお前と一緒にいろ。他のみんなは俺と一緒にこい。心配ないぜ、みんな。俺たちには、この瞬間ユニオン・バーにいるという証言者が大勢いるんだ」

ほとんど12時になりかけていた。通りには、家路についていた一人、二人の酔っ払い以外には人影がなかった。一行は道路を横切り、新聞社の扉を押し開けると、ボールドウィンと仲間が飛び込み、向かいにあった階段を駆け上がった。マクマードともう一人が下に残った。上の部屋から、叫び声と、助けを呼ぶ声が聞こえ、その後荒々しい足音と椅子が倒れる音がした。一瞬の後、灰色の髪の男が踊り場に駆け出してきた。

彼はそれ以上進む前に捕まり、彼の眼鏡がマクマードの足元まで音を立てて落ちてきた。鈍い音とうめき声が聞こえた。老人はうつ伏せに倒れ、六本の杖が彼に向かって振り降ろされ、お互いに当たって音がした。彼は身をよじり、長く細い手足が打撃に痙攣した。とうとう他の人間は打つ手を止めたが、ボールドウィンは、残酷な顔に悪魔の笑みを浮かべたまま、空しく腕で防ごうとしている男の頭を叩きつづけていた。彼の白い髪に血が飛び散っていた。ボールドウィンはまだ獲物に覆いかぶさり、無防備な部分を見るとすかさず、さっと惨い打撃を加えていた。その時、マクマードが階段を駆け上がりボールドウィンを押し戻した。

「殺す気か」彼は言った。「やめろ!」

ボールドウィンは驚いて彼を見た。「くそったれ!」彼は叫んだ。「俺の邪魔をするとは何様だ、 ―― お前は支部の新入りだろうが?引っ込んでろ!」彼は杖を振りかざした。しかしマクマードはポケットからさっと拳銃を取り出していた。

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「引っ込むのはお前だ!」彼は叫んだ。「もし俺に歯向かえば顔をぶっ飛ばすぞ。支部がどうのと言っているが、この男を殺さないようにというのは支部長の命令だったんじゃないのか。お前のやっている事は殺しでなかったら、なんだ?」

「マクマードの言うとおりだ」一人の男が言った。

「おい!急いだ方がいいぞ!」下にいた男が叫んだ。「窓に全部明かりが灯った。五分と経たずに町中の人間がここに来るぞ」

確かに通りで人の叫ぶ声が聞こえた。そして植字工と印刷工数人が、勇気を振り絞り何とかしようと階下のホールに集まっていた。階段の一番上にぐったりして動かなくなった編集者を残して犯罪者達は駆け下り、急いで通りを走り去った。ユニオン・ハウスに着くと、何人かがマギンティの酒場の仲間に交ざり、バーの中を、仕事が上手く遂行されたと小声で支部長に伝えた。マクマードを含む他のメンバーは、横道に駆け出し、そこから回り道をして自分たちの家に向かった。

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