コンプリート・シャーロック・ホームズ
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数分後、列車は薄暗い駅に到着した。バーミッサはこの路線では特に大きな町だったため、そこは大きく拓けた場所になっていた。マクマードが革の鞄を持ち上げ、暗い通りに行こうとした時、一人の炭鉱夫が近付いて来て声をかけた。

「ちょっと、相棒!あんたは警官との口の利き方を心得ているな」彼は畏敬を込めた声で言った。「あんたのタンカを聞いて、胸がすっとしたよ。荷物を持って案内させてくれ。俺は自分の家に帰る途中、シャフターの近くを通る」

彼らがプラットホームを通っている時、他の炭鉱夫から、親しげな「おやすみなさい」という合唱が起こった。荒々しいマクマードは、バーミッサに足を踏み入れる前から、その町の人気者になっていた。

その地方は恐怖に支配された場所だったが、町は輪をかけて重苦しい雰囲気だった。長い谷に下りると、暗いながらも、少なくともある種の壮大さがあった。巨大な炎とたなびく煙の中、強靭で勤勉な人間たちが、化け物のように巨大な露天掘りの脇に残渣をばら撒き、見事な記念碑を建立していた。しかし町は醜くむさ苦しい平地になっていた。広い通りは、馬車の往来に踏まれてわだちの跡が残る、恐ろしくドロドロの雪で覆われていた。歩道は狭くデコボコだった。あちこちにガス灯がつけられていたが、そのおかげで、通りに面してベランダのついた木造住宅の長い並びが、どれも手入れが行き届かず、汚いことが余計に目立った。

二人が町の中心部に近付くと、派手な照明の店が並んでいて、辺りが明るくなった。そして酒場や賭博場が集まった一角にまで来ると、その明るさがさらに増した。炭鉱夫たちは、労苦は多いものの結構な額になる給料を、そこで散財していた。

「あれがユニオン・ハウスだ」案内人がホテルのように堂々とそびえる酒場を指差して言った。「あそこの主人がジャック・マギンティだ」

「どんな男なんだ?」マクマードが尋ねた。

「何!あそこの店主のことを聞いたことがないのか?」

「なんで俺が聞いているんだ。あんたも俺がここらは初めてだと知っているだろう?」

「彼の名前は国中で知らない者はないと思っていた。しょっちゅう新聞に名が出ている」

「何でだ?」

「まあ」炭鉱夫は声を潜めた。「事件とかでな」

「どんな事件だ?」

「おいおい、旦那!悪い意味で言うわけじゃないが、あんたは変わり者だな。この辺りで耳にする事件と言えば、ただひとつしかない。スカウラーズの事件だ」

「ほお。シカゴでの新聞でスカウラーズの事を読んだような気がするな。殺人集団だったかな?」

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「シーッ、お願いだから!」炭鉱夫は叫んだ。そして、不安になって立ち止まり、同行者を驚きの目で見つめた。「いいか、往来でそんな話をすれば、ここでは絶対に長生きできんぞ。もっとつまらないことで殴り殺された人間がいっぱいいるんだ」

「俺は何も知らんよ。新聞にそう書いてあっただけだ」

「あんたが読んだ事が嘘だとは言わんが」男は話す時、神経質にあたりを見回し、危険がないかを確認しようと、臆病そうに影を覗き込んだ。「どれくらいの殺人がはびこっているか神のみぞ知るだ。しかし絶対にジャック・マギンティがそれに関係しているようなことを言ってはいかん。どんな些細な事も彼の耳に入るし、それを見過ごすような人間じゃない。さあ、通りから離れて建っているあの家が、探している家だ。ジェイコブ・シャフター老人はこの群の人間で、真面目な商売をしているよ」

「ありがとう」マクマードは言った。そして新しい知り合いと握手を交わすと、旅行鞄を手にブラブラと宿屋への道を進んだ。彼はその宿屋の扉をとどろくばかりにノックした。