コンプリート・シャーロック・ホームズ
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彼女が月曜日、ウォータールー9:50発の列車で戻るのは事前に確認しておいたので、私は早めに出発して9:13の列車をつかまえた。ファーナム駅では、簡単にチャーリントン荒野への道を教えてもらうことができた。若い女性が奇妙な経験をした現場はすぐに判明した。片側は開けた荒野、反対側は堂々とした木が所々に立っている私園を取り囲む古いイチイの生垣になっており、道はその間を通っていた。所々苔が生えた石造りの正面入り口があり、両側の柱の上には朽ちかけた紋章があった。しかしこの中央の馬車道以外に、私は、生垣に何箇所か切れ目があり、そこを小道が通っている地点を見つけた。建物は道からは見えなかったが、そちらの周辺はどこも陰鬱で朽ちかけた様子だった。

明るい春の太陽の日差しの下で、ハリエニシダが見事な輝く花を咲かせており、荒野は金色の斑点に覆われていた。屋敷への入り口と長い道路の両方向をどちらも見渡せるように、私は一つの茂みの後ろに陣取った。私が荒野に下りた時は道には人影がなかったが、隠れると同時に、私が来た逆方向から自転車に乗った人物がやって来るのが目に入った。男は暗い色のスーツを着ており、黒い髭を生やしているのが見えた。チャーリントンの敷地の外れに着くと、彼は自転車を飛び降りて生垣の隙間に入り、私の場所からは見えなくなった。

15分が過ぎた。その時、二台目の自転車が現われた。今度は、駅の方からやって来る若い女性だった。彼女がチャーリントンの生垣のところに来た時あたりを見回すのが見えた。次の瞬間、隠れていた場所から男が現われ、自転車に飛び乗って彼女の後を追い出した。広大な景色の中で、動く人影はこの二つだけだった。優美な女性は自転車に真っ直ぐに座っていたが、後ろの男はハンドルに低くうつ伏せになっていた。すべての行動に、妙に周りをはばかる気配があった。彼女は振り返って男を見ると速度を緩めた。男も速度を落とした。彼女は止まった。男も彼女の後ろ200ヤードを保ったまますぐに止まった。彼女はここで予想外の大胆な行動に出た。突然車輪を返すと、男に向かって真っ直ぐに走り出したのだ。しかし、男も彼女と同じように機敏で、死に物狂いで矢のように走り去った。まもなく彼女はまた道路に姿を現した。頭をツンとすましたように上げ、それ以上物言わぬ付き添いを相手にはしなかった。男も戻ってきた。そして道を曲がった地点で私の視界から消えるまでずっと距離を保ち続けていた。

私は隠れた場所に残っていたが、そうしていて良かった。間もなく男がゆっくりと自転車をこぎながら戻ってきて、再び姿を現したからだ。男は屋敷の門の方に曲がり、自転車から降りた。数分間、男が木の間で立っているのが見えた。男は手を胸元に上げていて、ちょうどネクタイを整えているように見えた。それから男は自転車に乗ると館に向かう馬車道に入り、私から遠ざかって行った。私は荒野を走って越え、木の間から覗いた。はるか遠くに、ちらりとチューダー様式の煙突が突き出た古い灰色の建物を見ることができた。しかし馬車道は葉が密な生垣の間を通っていたので、男の姿はもう見えなかった。

しかし私は自分でもなかなか上手く朝一番の仕事をこなしたと思った。そして意気揚揚とファーナムまで歩いていった。地元の不動産屋で、チャーリントン屋敷について尋ねたが、彼らは何も知らず、ポール・モールの有名な会社を紹介した。私が帰る途中そこへ寄ると、店員が礼儀正しく応対してくれた。いいえ、この夏、チャーリントン屋敷は空いていません。ほんの少し遅すぎましたね。一月ほど前に貸し出されました。賃借人の名前はウィリアムソン氏です。立派な初老の方でしたよ。礼儀正しい店員は、申し訳ないが顧客の個人的な事についてはこれ以上話すことができないと答えた。

シャーロックホームズはその夜、私のこの長い報告を注意深く聞いていた。しかし聞き終わっても、よくやったの一言もなかった。私はそれを期待し、それくらいの値打ちがあると思っていたのだ。彼は誉めるどころか、普段から厳しい顔をさらに険しくして、私のやったこと、やりそこねたことを指摘し始めた。

「ワトソン、君は非常にまずい場所に隠れた。君は生垣の後ろにいるべきだった。そうすればこの興味ある人物を近くで見ることができたはずだ。実際はどうだ。数百ヤードも離れた場所からの目撃談など、スミス嬢の話以下だ。彼女はその男を知らないと考えている。僕は彼女が知っている人間だと確信している。そうでなければ、なぜあそこまで必死になって自分の容貌が確認できない距離を保とうとするんだ?君は彼がハンドルに覆いかぶさっていると言った。もちろん、これも隠そうとしている証拠だ。君は本当に驚くほど下手なやり方をした。君は彼が消えた後になってから、その正体を知りたくなる。それで、行き先がロンドンの不動産屋とは!」

「どうしたらよかったんだ?」私はちょっとかっとなって叫んだ。

「近くの酒場にいっておけばよかった。そこは地元の噂話が集まる場所だ。君は、問題の家の主人から皿洗いのメイドまで全ての名前を聞けたはずだ。ウィリアムソン?それがどうした。もしそいつが初老の男なら、あの運動能力のある若い女性に追いかけられて、それ以上にすばやく自転車で逃げる能力などあるはずがない。君の出張からどんな結果が得られた?あの女性の話が本当だったという事だ。僕はそれを疑問に思ってなどいなかった。自転車乗りと屋敷に関係があるという事だ。僕はそれも疑っていなかった。その館を借りているのはウィリアムソンか。そんな事を知って誰が得をする?まあいい、ワトソン、そうしょげるな。次の土曜日までもう出来る事はほとんどない。その間、自分で一つ、二つ調査してもいい」

次の朝、スミス嬢から手紙が来た。そこには、簡潔だが正確に私が目撃したままの出来事が書かれていた。しかしそれよりも重大な内容が追伸の中にあった。

ホームズさん、あなたが私の秘密を守ってくださると信じて打ち明けます。雇用主が私に結婚を申し込んで、ここでの立場が微妙になりました。彼の気持ちは非常に真面目で真剣なものだと確信しています。しかしもちろん、私は既に婚約しております。私が拒絶すると、彼はかなりがっかりした様子でしたが非常に穏やかに受け止めました。しかし、少し緊張が高まったことはご理解いただけるでしょう。

「若き友人はどんどん深みにはまっているようだな」ホームズは手紙を読み終えた時考え深げに言った。「この事件は間違いなく僕が最初に思った以上に、興味深い特徴があり、将来の展望が期待できるな。静かで平和な田舎の一日も悪くはないだろう。今日の午後にでもちょっと出かけて、一つ二つ僕が練り上げた理論を試してみてもいい気になってきた」