コンプリート・シャーロック・ホームズ
ホーム長編緋色の研究四つの署名バスカヴィル家の犬恐怖の谷短編シャーロック・ホームズの冒険シャーロック・ホームズの回想シャーロック・ホームズの帰還最後の挨拶 シャーロック・ホームズの事件簿

「窓を一つ開けてきた」ホームズは言った。

「あなたが警察の敵ではなく味方でいてくれて助かりましたよ、ホームズさん」警部はホームズが巧妙な方法で留め金を戻したことに気付いて言った。「この状況下では、招待無しで入っていいでしょうな」

我々は一人ずつ大きな部屋に入った。そこはメラス氏がいた場所のようだった。警部はランタンに火を入れ、その灯りで、二つの扉、カーテン、ランプ、メラス氏の話にあったような日本の鎧一式が見えた。テーブルの上には、コップが二個、空のブランデーの瓶、食事の残りが置いてあった。

「あれは何だ?」突然ホームズが言った。

我々は立ち止まって耳を澄ませた。頭上のどこかから低い唸り声が聞こえてきた。ホームズは扉に走って行き、ホールに飛び出した。不気味な声は上階から聞こえてきていた。ホームズは駆け上がった。警部と私はホームズのすぐ後に続いた。兄のマイクロフトは、その巨体の許す限り急いで後を追った。

三階には三つの扉があった。真中の扉から、恐ろしい声が時々低いうめきのように小さくなり、また鋭くすすり泣くように大きくなりながら、漏れてきていた。扉の錠は掛かっていたが、鍵は外側から差したままだった。ホームズは扉を押し開けると飛び込んだ。しかし、喉元に手を当ててすぐに出て来た。

illustration

「炭火だ」ホームズは叫んだ。「ちょっと待ってくれ。僕が片付ける」

中を覗き込むと、部屋の中心に置かれた小さな真鍮の三脚台の上で、青い炎が薄暗くチラチラと輝いている以外に部屋の明かりは無かった。その揺れる炎が、青白い不自然な輪を床に投げかけていた。その向こうにある影の中に、壁にもたれてうずくまっている二人の人間の姿がぼんやりと見えた。開け放たれた扉から、恐ろしく有害なガスが流れ出し、我々はあえいだり咳き込んだりし始めた。ホームズは階段の一番上まで走って行って新鮮な空気を吸い込むと、部屋の中に飛び込んだ。彼は窓を押し開け、真鍮の三脚台を庭に投げ捨てた。

illustration

「一分で入れるだろう」ホームズはもう一度走り出て来ると、あえぎながら言った。「ロウソクはどこだ?あの空気ではマッチを擦れるか分からん。戸口で明かりを持っていてくれ。僕たちが二人を運び出す。マイクロフト、今だ!」