コンプリート・シャーロック・ホームズ
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ポールモールのメラス氏の部屋に着く前に、辺りはほとんど暗闇になっていた。我々が到着する直前に一人の男が訪問し、メラス氏は外出していた。

「どこに行ったか分かりますか?」マイクロフトホームズが尋ねた。

「分かりません」扉を開けた女性は答えた。「その紳士と一緒に馬車で行ったということだけです」

「その紳士は名前を言いましたか?」

「いいえ」

「背の高い、男前の、色の黒い男ではなかったですか?」

「いいえ。背の低い人でした。眼鏡をかけて痩せた顔でしたが、楽しそうでしたよ。話している間中ずっと笑っていました」

「行こう!」シャーロックホームズは突然叫んだ。「これで余計に深刻な事態となった」彼はロンドン警視庁へ行く途中で言った。「奴らはまたメラス氏を拉致した。メラス氏が暴力の脅しに弱いことは、あの晩の経験で奴らも十分気付いている。奴らはちょっと姿を見せただけで、メラス氏を意のままにすることができた。通訳が必要となったことには間違いないが、用が済めばメラス氏を裏切り者とみなして危害を加えるだろう」

列車を使えば馬車と同時か、それより早くベッケンハムに到着できるかもしれないという期待があった。しかしロンドン警視庁に着き、グレッグソン警部に会い、家に踏み込む法的手続きをしてくれるよう説得するのに一時間以上かかった。我々が、ロンドンブリッジに到着する頃には10時15分前になり、ベッケンハム駅のプラットホームに降り立つまでに10時半が過ぎた。半マイル馬車で行くと、マートルズに着いた。道路の向こうには、大きな暗い家が私有地の中に建っていた。ここで我々は辻馬車を帰し、一緒に玄関への道を登った。

「窓は全部灯が消えている」警部が言った。「家は空家のようだ」

「奴らは逃げて、もぬけの殻だ」ホームズが言った。

「どうして分かるんですか?」

「重い荷物を積んだ馬車が、一時間くらい前に通っている」

警部は笑った。「門のランプで馬車の車輪の跡を見ましたが、どこから荷物のことが分かるんですか?」

「同じ車輪の跡が反対方向に行っていただろう。しかし外に向かっている方は非常に深かった。あそこまで深ければ、客車の重量が相当なものだったのは確かだ」

「あなたは一枚上手ですね」警部は肩をすぼめながら言った。「扉を破るのは一苦労しそうですな。しかし返事が無いならやってみましょう」

警部はノッカーを激しく叩き、ベルの紐を引いた。しかし何の返事もなかった。気がつくとホームズはいなくなっていたが、数分後に戻って来た。