コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「そんな名前を何かで読んだな」

「いいか、わしの言う事を信用しろ。奴らに狙われたらお前達に勝ち目はない。あいつらの仕事は、出たとこ勝負のお役所仕事じゃない。恐ろしく真剣な事業計画を立て、結果を追求し、どんな手段を使っても結果が出るまではあきらめん。もしピンカートンの探偵が俺たちの行動に深く関与してくれば、全員破滅だ」

「殺ってしまうさ」

「ああ、お前らが最初に思いつくのはそれか!支部ではそういうことになるだろうな。結局殺人になると言わなかったか?」

「そうだ、殺人がどうした?ここではありふれたことじゃないか?」

「確かにそうだ。しかしわしは、誰を殺すか指名するのは遠慮したい。二度と心が休まることがなくなるだろう。それでも、わしら自身の命に危険が迫っているかもしれん。いったい、どうしたらいいのだ?」彼は決断のつかない苦痛に椅子を前後に揺らした。

彼の話にマクマードは強く興味を引かれた。マクマードは、モリスと同じように危険を感じ、それに対策を講じる必要があることがピンときた。彼はモリスの肩を掴んで、激しく揺り動かした。

「いいか」彼は叫んだ。彼は興奮し、ほとんど金切り声になっていた。「通夜のばばあみたいに泣き叫んで座っていても、何の役にもたたんだろう。事実を教えてくれ。そいつは誰だ?どこにいる?どうやって彼のことが耳に入った?なぜ俺のところに来た?」

「お前の所にきたのは、わしに助言をしてくれる者が他におらんからだ。以前言ったように、わしはここに来る前に東部で店を出していた。そこにはいい友人が残っているが、その一人が電報局に勤めているのだ。これが、昨日彼から来た手紙だ。ページの先頭の、この部分だ。自分で読んでみろ」

マクマードが渡された手紙はこういう文面だった。

そちらのスカウラーズはどんな調子だ?新聞で嫌と言うほど読んでいる。ここだけの話だが、遠からずお前から連絡が入るのではないかと思っている。大企業五社と鉄道会社二社が、真剣にこの問題の解決に乗り出した。今度は本気だ。目的が達成されると思って間違いないぞ!かなりのところまで行っているようだ。会社の要請で、ピンカートン社が体制を整備し、一番有能な探偵のバーディ・エドワーズが捜査中だ。すぐに事態は収拾されるに違いない。

「それから追伸を読んでみろ」

言うまでもなく、この情報は仕事上で知った事だから、他言しないでくれ。毎日長い奇妙な電文が送られているが、暗号化されているために、これ以上は分からん。

マクマードは手紙を持った手をだらりと下げ、長い間黙って座っていた。まるで、霧が一瞬晴れた後、目の前に深い絶壁が出現したような気がしていた。