コンプリート・シャーロック・ホームズ
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団員になれば組織で起きていることはすべて分かると思うかもしれない。しかしマクマードはすぐに、組織は一つの支部を越えてもっと大きく複雑だということを発見した。マギンティ支部長でさえ多くのことを聞かされていなかった。地区代表という名前の役職者が、線路の向こうのホブソンズ・パッチに住んでいた。彼は幾つかの支部に対して支配力を持っており、突然、気ままな方法で行使した。マクマードは一度だけ彼と会う機会があった。ずるそうな、背の低い白髪混じりのネズミのような男だった。コソコソした歩き方で、斜視の目には悪意がみなぎっていた。エバンス・ポットと言う名前だった。大きな体格のバーミッサの支部長でさえ、彼に対してはいくらか嫌悪感と恐怖を感じていた。それは小さいが危険なロベスピエールに対して、大きなダントンが抱いていた感情と同じだったかもしれない。

ある日、マクマードの下宿仲間のスキャンランは、マギンティから手紙を受け取った。中には、エバンス・ポットからの手紙が同梱されていた。同梱された手紙を読むと、このように書いてあった。「ローラーとアンドリューという二人の有能な男を送り込む予定だ。この二人はそちらの近辺で行動を起こす指令を受けているが、目標についての詳細はお互いのために明かさないのが一番だ。行動する時がやってくるまでの間、適当な宿舎と生活の便宜をはかるための措置を、支部長に準備していただきたい」マギンティはこの手紙に、次のように書き足していた。「ユニオン・ハウスでは誰かを秘密裏に置いておく事は不可能なため、もしマクマードとスキャンランが彼らの下宿にその二人を数日間泊めてもらえれば感謝する」

その夜、二人の男がそれぞれ手提げ鞄を持ってやって来た。ローヤーは老人で、利口そうで、無口で、自制心があり、古い黒のフロックコートに身を包みんでいた。それに加えて柔らかいフェルト帽を被り、もつれた白髪混じりの顎ひげを生やしていたので、巡回説教師に似た風貌になっていた。彼の相棒のアンドリューは子供のような年齢だった。彼は実直そうでな男で、快活なくつろいだ態度だった。まるで、休暇にやってきて、一瞬でも楽しまずにはおかないぞと決心している人間のように見えた。二人は全く酒をやらなかった。そしてあらゆる点で組織の模範となるような態度だった。ただ一つ単純な例外があった。彼らは自分自身をこの殺人組織の中で最も有能な暗殺者だと力説するのに余念がなかった。ローラーはこういう任務を既に14回果たしていた。アンドリューは3回だった。

マクマードが見付けたところでは、彼らは、過去の行いに関しては極めてこだわりなく話した。組織に対し、素晴らしく利他的な行いを果たした人間として、彼らはややはにかんだような誇りを持って話した。しかし、彼らは今まさに手がけようとしている目前の仕事に関しては何も話さなかった。

「俺もこいつも、酒を飲まないから選ばれたんだ」ローラーは説明した。「俺たちは必要以上のことを話さないように言われている。気を悪くせんでくれ。しかしこれは地区代表の命令で従わねばならんのだ」

「そうだ、我々はみんな従わねばならない」マクマードの友人のスキャンランは四人が一緒に夕食の席についている時、こう言った。

「そのとおりだ、これからは、チャーリー・ウィリアムズやサイモン・バードの殺害やその他の昔の仕事についてずっと話し合おう。しかし終わっていない仕事については何も話せん」

「ここらには、俺がちょっと文句をつけたい奴が6人いるな」マクマードが罵りながら言った。「多分、あんたらが狙っているのはアイアンヒルのジャック・ノックスじゃないかな。奴が当然の報いを受けるのなら見に行ってもいいぜ」

「いや、まだ彼の番ではない」

「じゃ、ハーマン・ストラウスか?」

「いや、彼でもない」

「そうか、言わないと言うなら無理に訊くことは出来ん。しかし知りたいな」

ローラーは微笑んで首を振った。彼は何も話さなかった。