コンプリート・シャーロック・ホームズ
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もし彼女が彼を驚かすつもりだったなら、それは間違いなく成功した。しかしその代わりに彼女自身が驚かされるはめになった。虎のような勢いで彼は振り返り、右手で喉を押さえた。同時にもう一方の手で、彼は前に置いてあった紙をくしゃくしゃに丸めた。一瞬、彼は立ったまま睨みつけた。彼の顔はけいれんを起こしたような獰猛な表情で、彼女は、これまでの平穏な人生で一度も味わった事のない残忍さを感じ、恐怖にすくみあがった。彼の表情が緩んで、驚きと喜びに変わった。

「お前だったのか!」彼は額を拭きながら言った。「来てくれると分かっていたら、エティ。お前を絞め殺しかけるような最悪な事態にはならなかったのに。こっちに来いよ」彼は手を差し出した。「埋め合わせをさせてくれ」

しかし、突然彼の顔にやましい恐怖が浮かんだのを垣間見た彼女は、まだ落ち着きを取り戻してはいなかった。彼女は、女性の本能から、それが単にびっくりさせられただけではないと分かった。罪悪感、 ―― そうだ ―― 、あれは罪悪感と恐怖だ!

「一体何があったの、ジャック?」彼女は叫んだ。「なぜ私をあんなに恐がったの?ああ、ジャック。もし良心に恥じることが無いなら、あんなふうに私を見なかったはずよ!」

「いや、俺は他の事を考えていたんだ。この綺麗な足であんなに軽やかにやって来た時・・・・・」

「違うわ、それだけじゃないわ、ジャック」その時、突然疑念が沸き起こった。「あなたが書いていた手紙を見せてよ」

「ああ、エティ、それはできないんだ」

彼女の疑念は確信に変わった。「別の女ね」彼女は叫んだ。「分かってるわ!そうじゃなかったらなぜ隠すの?あなたが書いていたのは奥さん宛でしょう?どうやってあなたが結婚していないと分かる?あなたは、余所から来て、誰も正体を知らない」

「俺は結婚していない、エティ。いいか、俺は誓う!お前は俺にとってこの世でたった一人の女だ。キリストの十字架にかけて俺は誓う!」

彼は顔が青ざめるほど真剣にこう言ったので、彼女は信じるしかなかった。

「じゃあ」彼女は叫んだ。「なぜその手紙を見せてくれないの?」

「それはな、エティ」彼は言った。「俺はこれを見せないと約束しているんだ。俺がお前の約束を破らないように、俺は自分の約束を守ってくれる相手を裏切りたくないんだ。これは支部の仕事だ。だからお前にさえ秘密なんだ。それから、お前の手が触れた時に俺が驚いたのは、それが刑事の手かもしれないと思ったためだと分かってくれないかな?」

エティは彼が本当のことを言っていると感じた。マクマードは彼女を抱きしめて、キスをして恐れや疑いを取り去った。