コンプリート・シャーロック・ホームズ
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幹線道路に出ると、彼らの足取りは速くなった。一度だけ、誰かと出会ったが、なんとか畑の中に逃げ込み目撃されなかった。街に着く途中、狩人は脇にそれ、山に向かう険しく狭い道に入った。黒いゴツゴツした山頂が二つ、夜空に高くそびえ立っていた。その山間の渓谷が、馬をつないであるイーグル渓谷だった。ジェファーソン・ホープは的確な直観力で、巨石の間を抜け、干上がった河床を通り、岩に隠れて奥まった一角にたどり着くまで、道を間違えなかった。忠実な動物はそこに繋がれていた。女性をロバに乗せ、金の袋を持ったフェリアー老人を馬に乗せると、ジェファーソンは、もう一頭の馬に乗って切り立った危険な道を先導した。

そこは、牙を剥く自然と対峙するのに慣れていない人間にとっては、めまいがするような道だった。片側は、千フィート以上のそびえたつ絶壁だ。黒く、厳しく、威圧的で、ゴツゴツした岩肌に見える長い玄武岩の柱は、石化した怪物のあばら骨のようだった。反対側は、巨石と瓦礫がごちゃ混ぜになり前進を阻んでいた。その間に不規則な道があった。場所によって道は非常に細くなり、彼らは一列縦隊で進まねばならなかった。そして非常に荒れた道のために、そこを越えていけるのは熟練の乗り手だけだった。しかし、あらゆる危険と困難にも関わらず、逃亡者達の心は明るかった。一歩進むごとに、彼らと、彼らが脱出した恐怖の専制国の距離は増して行った。

しかしまもなく彼らは自分たちがまだ聖者たちの支配権の中にいる証拠と出会った。彼らは最も荒々しく荒廃した道に差し掛かっていた。その時、女性が驚いて叫び声をあげ、頭上を指差した。道を監視できる場所にある、くっきりと空に向かってそびえ立つ黒い岩の上に、一人の歩哨が立っていた。彼らが気づくと同時に、歩哨も彼らを発見した。そして軍隊式の「誰何」が、静かな渓谷に響き渡った。

「ネバダに行く旅の者だ」ジェファーソン・ホープが鞍にぶら下げたライフルに手を置いて言った。

見張りが銃を手に、彼らの返答を疑うかのように覗き下ろしているのが見えた。

「誰の許しを得て?」彼は尋ねた。

「四長老だ」フェリアーが答えた。彼はモルモン教徒としての経験で、引き合いに出せる最高の権威はこれだと知っていた。

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「九から七」歩哨が叫んだ。

「七から五」すぐにジェファーソン・ホープが庭で耳にした応答を思い出して応答した。

「通れ、神が共にあらんことを」頭上の男が言った。歩哨の持ち場を過ぎると道は広がっていた。そして馬は次第に駆けることが出来るようになった。振り返ると、見張りの男が銃に寄りかかっている姿が目に入った。そして彼らは選ばれし民の境界点を通過し、目の前に自由が広がっていることを知った。