コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「『ドレバーさんはここに三週間近くいました。彼と秘書のスタンガーソンさんは、大陸を旅行していました。二人の鞄に、直前に滞在していたコペンハーゲンのラベルが張ってあるのに気付きました。スタンガーソンさんは物静かで控えめな人でした。しかし彼の雇い主は、申し上げにくいですが、全く逆でした。ドレバーさんは下品な性格で、振る舞いも粗暴でした。ここに到着したその夜、彼はへべれけに酔っ払って、実際、昼の十二時過ぎになっても、酔いが抜けていませんでした。メイドに対する態度は、忌々しいほど勝手でなれなれしいものでした。最悪なことに、彼はすぐ娘のアリスにも同じ態度をとり始めました。そして一度ならず彼は娘に、ある表現で話しかけました。幸い、娘はうぶで理解できませんでしたが。ある時、彼は本当に娘の手をつかんで抱きしめました。 ―― 彼の秘書もこの暴挙には、恥ずべき振る舞いをたしなめました』」

「『しかしどうしてそんな事態を我慢していたんですか?』私は尋ねました。『その気になれば何時でも下宿人を追い出せたように思いますがね』」

「シャルパンティエ夫人は核心を突いた質問に顔を赤くしました。『来たその日にきっぱりと断っておけば良かったのにと思います』彼女は言いました。『しかし苦しい程の誘惑でした。彼らはそれぞれ一日一ポンド支払っていました、・・・・一週間で十四ポンドです。そして今は閑散期です。私は未亡人で、海軍にいる息子は金がかかります。私はお金を失いたくありませんでした。私は万事よかれと思って行動しました。しかし先ほど申し上げた暴挙には堪忍袋の緒が切れましたので、出て行くように通告しました。彼が立ち去ったのはこれが理由です』」

「『それで?』」

「『彼が出て行くのを見て、私の心は晴れました。息子は今ちょうど休暇中ですが、息子にはこのことについて何一つ触れませんでした。息子は激しい性格で、妹が大好きでした。私は下宿人を送り出して扉を閉めた時、重荷を下ろしたように感じました。何と、一時間とたたないうちにベルがなり、ドレバーさんが戻ってきたことが分かりました。彼は非常に興奮していました。そして明らかにひどく悪酔いしていました。彼は無理やり私と娘が暮らしていた部屋に上がり込みました。列車に乗り遅れたとか何とか、訳のわからないことを言っていました。彼はそれからアリスの方を振り返り、私の目の前で、自分と駆け落ちしようと言いました。《お前は大人だ》彼は言いました。《禁止する法律はない。俺はあり余るほどの金を持っている。この老いぼれ女は気にするな。すぐに俺と一緒に来い。お姫様のような暮らしをさせてやる》可哀想にアリスは非常に怖がって後ずさりしました。しかし彼は娘の手首をつかみ、戸口のところまで引っ張って行こうとしました。私は叫び声を上げました。その瞬間、息子のアーサーが部屋に入ってきました。その後何があったか知りません。罵る声と取っ組み合うような音が聞こえました。私は怖くて目を上げられませんでした。私が見上げた時、アーサーがステッキを手にして笑いながら、戸口に立っているのが見えました。《あのご立派な人物が俺達をまた悩ませるとは思わんが》息子は言いました。《後を追って一人で何をしているか見てこよう》こう言うと、息子は帽子を取って通りに出て行きました。次の朝私たちはドレバーさんの不思議な死を知りました』」

「シャルパンティエ夫人がこの供述をしている時、彼女は何度となくあえいで息を詰まらせました。時々、彼女の声は非常に小さくなって、私は何を言っているのか聞き取れませんでした。しかし、私は彼女の言った事を全部速記で書きとりましたので、聞き間違いの可能性はありません」

「なかなか面白いね」シャーロックホームズはあくびをしながら言った。「それから何があった?」

「シャルパンティエ夫人が話し終えた時」警部は続けた。「私はこの事件全体が一点にかかっていると分かりました。女性に対してはいつもこれが効果的と分かっているんですが、私は彼女をじっと見ながら、息子が何時に帰ってきたか尋ねました」

「『知りません』彼女は答えました」

「『知らない?』」

「『はい。息子は鍵を持っています。自分で家に入りました』」

「『あなたが寝室に行った後で?』」

「『そうです』」

「『何時に寝室に行きましたか?』」

「『十一時頃です』」

「『ではあなたの息子さんは少なくとも二時間は外出していたのですね?』」

「『そうです』」

「『もしかすると四時間か五時間かもしれない』」

「『そうです』」

「『その間彼は何をしていたのですか?』」

「『知りません』彼女は唇まで真っ青になりながら答えました」