コンプリート・シャーロック・ホームズ
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ホームズの求めに応じて、私は雑種犬をピンチン・レーンの老動物学者の家に連れて行き、半ソブリン貨の謝礼と一緒に犬を返した。キャンバーウェルに行くと、モースタン嬢は昨夜の冒険で少し疲れているようだったが、その後の進展について、しきりに話すようせがんだ。フォレスター夫人も、興味津々だった。私は、ホームズと行った調査については全部話したが、恐ろしい惨劇の詳細部分は避けた。つまりショルト氏が死んだ事は話したが、正確な殺害方法については何も説明しなかった。しかし、私が話した範囲でも、二人は驚き当惑していた。

「ロマンスですこと!」フォレスター夫人は叫んだ。「虐げられた女性、50万ポンドの財宝、黒い人食い人種、木の義足の悪漢。これは、昔話で言えば、ドラゴンや邪悪な伯爵と同じですね」

「それから、助けに来る二人の騎士」モースタン嬢はキラキラした目を私に向けて、こう付け加えた。

「どうしたの、メアリー、あなたの財産はこの捜査の成り行き次第なんですよ。あんまり興奮しているように見えないけど。ちょっと想像してごらんなさい、どんな事になるか。そんなにお金持ちになって、世界を征服したら!」

私の心は喜びに震えた。この想像に彼女がワクワクしているようには見えないと気づいたからだ。それどころか、彼女はまるでそれほど関心がないかのように、頭をちょっと傾げた。

「私が心配なのはサディアス・ショルトさんです」彼女は言った。「それ以外はあまり重要ではありません。ショルトさんは最初から最後まで、非常に親切で立派な行動をされたと思います。こんなひどい、根も葉もない容疑を晴らすのは私たちの責任です」

私がキャンバーウェルを後にしたのは、もう夕方だった。そして私が家に着く頃には、完全に暗くなっていた。ホームズの本とパイプは椅子の側に置かれていたが、彼はいなかった。書置きがないかとあたりを見回したが、何も見つからなかった。

「シャーロックホームズは出て行ったようだね」私はハドソン夫人が上がってきてブラインドを降ろす時言った。

「いいえ。ご自分の部屋に行きましたよ」彼女はささやくような小声で、意味ありげにこう言った。「あの人の健康が心配です」

「なぜそう思うんです?ハドソンさん」

「あの人はちょっと変わっているでしょう。あなたが出て行ってから歩き回っていました。行ったり来たり、行ったり来たり、私はその足音にうんざりしました。それから、独り言を言ったり、何かつぶやくのが聞こえました。それにベルが鳴るたびに階段の一番上まで来て、『今のは何だ、ハドソンさん』と尋ねるんです。そして今度は、バタンと扉を閉めて自分の部屋に行きましたが、相変わらず歩き回っている音が聞こえます。病気にならなければいいんですが。私は思い切って鎮静剤はいかが、と話しかけてみたんですが、私を振り返った形相が物凄くて、どうやって部屋を出たのか覚えていません」

「心配するようなことは何もないと思いますよ、ハドソンさん」私は答えた。「こういう風になったのは前にも見たことがあります。彼はちょっとした事が心にひっかかっていて、それで落ち着かないんです」

私は思いやりのある女家主に努めて明るく話したが、長い夜の間中、時折鈍い足音が響いてきて、鋭敏な精神を持ったホームズが、この不本意な待機にどれほど苛立っているか分かり、私も少し不安になった。