コンプリート・シャーロック・ホームズ
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私は何か、もっともらしい説明を一つ、二つの考えようとした。しかしもちろん、私も完全に訳が分からなかった。サー・チャールズの肩書き、財産、年齢、性格、風貌、全て文句のつけようがない。そして、彼の家系に起こる不吉な運命を除けば、彼に不利な条件はまったく思いつかない。女性の意思を一切確認することもないまま、これほどぞんざいに彼の申し入れが拒否されたこと、そして女性が黙ってこの状況を受け入れていることは、非常に驚くべき事だ。しかし、その日の午後、ステイプルトンがやって来て、こういう推測にはひとまず決着がついた。彼は午前中の無礼を謝るためにやって来た。そしてサー・ヘンリーと書斎で長い間個人的に話した後、二人は完全に仲直りをすることになった。そしてその印として、私たちはメリピット・ハウスで次の金曜日に食事をする事になった。

「いまだに、彼の気が狂っていないか、確証がもてない」サー・ヘンリーは言った。「今朝私に向かって走ってきた時の目つきは忘れられない。しかし彼ほど見事に謝罪できる人間はいないという事は、認めるしかないな」

「彼はあんな態度を取った理由を説明したのか?」

「妹は自分の人生にとって全てだと言っている。それは良く分かるし、妹の素晴らしさをきちんと理解している事は喜ばしい。二人はずっと一緒に暮らしてきた。そして彼の説明によれば、彼は妹だけを頼りにしている非常に孤独な男だったらしい。だから妹を失うと考えた時、彼は本当に動揺した。彼は、私が彼女に愛情を感じ始めていたとは思っていなかったと言った。しかしそれが事実であり、妹が連れ去られるかもしれないことを自分の目で確認した時、彼は非常に衝撃を受け、しばらくの間、自分の言動や行動に対して善悪の区別がつかなかったと言った。彼はあの時の事は全部非常にすまなく思っていると謝罪し、一生涯、妹のような美しい女性を自分の手元に置いておけると想像するのがいかに馬鹿馬鹿しく自分勝手な事だったかという事に気づいたと話した。彼はこんな風に言った。もし彼女が自分の手を離れなければならないのなら、他の人間より私のように近所の人間の方がありがたいと思う。しかしいずれにしてもそれは兄として辛いことなので、この事態を受け入れる事ができるまでには、まだしばらく時間がかかるだろう。もし三ヶ月、今までどおりの関係を保ち、その間、妹とは親交を深めるが、愛情を要求しないと約束するなら、どんな敵対行為もしない。この条件を私が承諾して、事態は収まった」

このようにして一つの小さな謎が解明された。これは我々が落ち込んでもがいている沼地のどこかで硬い地面があるのを発見したしたようなものだ。ステイプルトンがなぜ妹の求婚者 ―― その求婚者がサー・ヘンリーのように非常に立派な男であっても ―― 、を不愉快に思うかはようやく分かった。それでは、この辺で別の糸に移ろう。夜の忍び泣きの謎、バリモア婦人の涙の跡、西側の格子窓へバリモアが忍んで行く事、 ―― 私はこのもつれた糸を解き出した。よくやったと言って欲しい、ホームズ。そして私が代理人として君を失望させなかったと言って欲しい。私を送り出す時に見せてくれた君の信頼には見事にこたえられたと思う。たった一夜で、こういった謎がすべて完全に明白となったのだ。