コンプリート・シャーロック・ホームズ
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非常に奇妙で予想もしない出来事が起きたのはこの瞬間だった。私たちは見込みのない追跡を諦め、座っていた石から立ち上り、館に戻ろうと振り返った。右手に低い月が出ていた。銀色に輝く月の下部を遮るように、花崗岩の岩山のギザギザした頂上がそびえ立っていた。そこに、逆光の黒檀彫像のように黒いシルエットになった男が一人、岩山の上に立っている姿が見えた。錯覚とは思わないでくれ、ホームズ。私は人生であれほどはっきりと見た事はないと約束する。私の見たところ、背の高い痩せた男のようだった。その男は脚をちょっと広げて立ち、腕を組み、あたかも眼前に広がる泥炭と花崗岩の果てしない荒地について、何か思いを巡らしているかのように、うつむいていた。この恐ろしい地の聖霊のように見えた。あれは囚人ではなかった。この男は囚人が居なくなった場所から遠く離れた場所にいた。それに、この男はもっと背が高かった。私は驚いて叫び声をあげ、男を指差してサー・ヘンリーを振り返った。しかし私が彼の腕をつかんでいる間に、男は消えていた。鋭い花崗岩の頂上は、まだ月の下端をえぐり取っていた。しかしその頂上にいた、あの静かで不動の人物は跡形もなかった。

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私はそこまで行って岩山を捜索したいと思ったが、かなり距離があった。準男爵は、バスカヴィル家の暗い伝説を思い起こさせるあの叫び声を聞いて、まだ恐怖に怯えていたので、新しい冒険に出かける精神状態ではなかった。彼は岩山の上の孤独な男を見ていなかったので、私がその奇妙な風貌と堂々とした態度から受けた興奮を共有することが出来なかった。「きっと看守だ」彼は言った。「あの男が逃げてから大勢荒野に来ている」おそらく彼の言うとおりなのだろうが、私はもっと確実な証拠を得たいと思っている。今日、私たちは脱獄犯の居場所について、プリンスタウンの関係者と連絡をとるつもりだ。しかし、私たち自身の手で、うまく脱獄犯を捕らえて連れ戻すのはかなり難しいことだ。これが昨夜の冒険だ。そして、ホームズ、君も今回報告した事件については、非常によくやったと評価してくれるはずだ。私は君に見当外れの事をたくさん書いていると思う。しかしそれでも、私は全ての事実を君に提供し、君が自分の結論を出すのに最も役立つ事実を取捨選択できるようにするのが一番だと考えている。事件は解決に向けて少しだが確実に進展した。バリモア夫妻の行動については、二人の行動の動機が見つかり、それによって状況は非常に明白になった。だが、荒野は相変わらず不可解で、そこには謎と、奇妙な住民が潜んだままだ。たぶん次の連絡で、これにも何らか新事実が見つかるだろうと思う。もちろん、君がここに来る事ができればそれが一番なのだが。どちらにしても、数日の間にはもう一度手紙を書くつもりだ。