コンプリート・シャーロック・ホームズ
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シャーロックホームズはこの奇妙な訪問者に椅子を勧めた。「あなたは自分の考えに熱中するタイプのようですね、私もそうなんですが」彼は言った。「その人差し指から見ると、自分で煙草をお巻きになるようですね。どうぞご遠慮なく一服してください」

訪問者は紙と煙草を取り出し、驚くべき器用さで巻き上げた。彼は昆虫の触覚のような器用さで、小刻みに素早く指を動かすことができたのだ。

ホームズは何も言わなかったが、ちょっと見回すように眺めたので、この奇妙な人物に興味を惹かれたようだった。

「おそらく」彼はしばらしくして、こう言った。「あなたがわざわざ昨日と今日、二回も来られたのは、単に私の頭蓋骨を調査するのが目的ではないでしょう?」

「もちろんです。もちろん違います。しかし、こんな好機が得られた事は嬉しいですね。ホームズさん、私がここに来たのは、自分が実務的な人間ではないと分かっているのに、突然、非常に深刻で異常な事件に直面する事になったからです。あなたをヨーロッパで二番目に素晴らしい専門家と見込んで・・・・・」

「なるほど!一番目の栄誉を獲得されたのはどなたか、お聞かせ願えますかな?」ホームズはちょっと刺々しく尋ねた。

「緻密な科学を愛する人間として、フランスのベルティヨン*の研究にはずっと魅了されてきました」

「では、彼に相談されたらよいのでは?」

「私が言ったのは、緻密な科学的精神の事です。しかし実際に事件を扱うとなれば、あなたをおいて他にないというのは万人の認めるところです。うっかり妙な事を申し上げてはいないはずですが・・・・・」

「なくもないですかね」ホームズは言った。「ドクター・モーティマー、余計な前置きはこれくらいにしましょう。あなたが私の助けを借りたいと言う事件がどんなものなのか、分かりやすく、正確に説明いただけますか」