コンプリート・シャーロック・ホームズ
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レストレードを彼の部屋に残し、我々は自分のホテルに馬車で行った。テーブルに昼食が用意されていた。ホームズは複雑な立場に立たされた人間のように、沈痛な表情を浮かべて、静かに考え込んでいた。

「ちょっといいか、ワトソン」ホームズは昼食が下げられると言った。「ちょっとこの席で君に話したいことがある。どうしていいか本当に困っている。君の意見を聞きたい。タバコに火をつけて詳しく説明させてくれ」

「じゃ頼む」

「まず、この事件をじっくり検討するにあたって、マッカーシーの息子の話に僕が興味を覚えた点が二つある。それは僕には彼に有利だという印象で、君たちには不利だというものだった。一つは、供述によれば、彼の父親は息子を見る前に『クーイー』と叫んでいるということだ。もう一つは、父親の奇妙なネズミに関する死に際の言葉だ。君も聞いたように、彼は複数の単語をつぶやいていた。しかしそれはすべて息子の耳にそう聞こえたことに過ぎない。さて、この二点から調査を始めなければならない、そして、青年が完全に真実を言っていると仮定することから始めよう」

「その『クーイー』というのは何なんだ?」

「そうだな、明らかに息子に向かってのものではありえない。父親の知る限りでは、息子はブリストルにいたわけだ。息子はたまたま聞こえる場所にいただけだ。この『クーイー』というのは誰か父親が会う約束をしていた人間に聞かせるためのものだ。しかし、『クーイー』はオーストラリア人に特有の掛け声で、オーストラリア人同士で使われる。そこで強い推測が成り立つ。ボスコム池でマッカーシーが会おうと思っていた人物は、オーストラリアにいたことがある誰かだと」

「それではネズミはどういう意味だ?」

シャーロックホームズは折りたたんだ紙をポケットから取り出し、テーブルの上に広げた。「これはビクトリアコロニーの地図だ」彼は言った。「僕は昨日ブリストルに電報を打ったんだ」ホームズは地図の一部を手で覆った。「何と書いてある?」

「アラット(ネズミ)」私は読んだ。

「では、これは?」彼は手を離した。

バララット*

「そうだ。これがつぶやいていた言葉だ、そして息子は最後の二音節のみ聞き取ったのだ。父は殺人者の名前を言おうとしていた。誰々、バララットの」

「素晴らしい!」私は叫んだ。

「これは明白だ。そして今や、僕は大幅に範囲を狭めた。息子の供述を正しいと仮定すると、灰色の衣類を持っているというのが間違いなく三番目の重点だ。我々は今や、曖昧な中から、グレーのマントを着用し、バララットから来たオーストラリア人というハッキリした考えを浮かび上がらせた」

「確かに」

「そしてその人物はこの地区に住んでいる。あの池は農場か屋敷からしか近づけない。よそ者が迷い込むような場所ではない」

「その通りだ」

「それでは今日の遠征についてだ。地面の調査で、犯罪者の特徴に関して、馬鹿なレストレードに言ったようなささいな詳細を得た」

「しかし、どうやって分かったのだ?」

「君も僕の手法は知っているだろう。小さなものの観察に基づいているのだ」

「私も、歩幅の長さから大体身長決められるということは知っている。履いている靴も足跡で分かる」

「そうだ、変わった靴だった」

「しかし、足が不自由というのは?」

「右足の足跡のみが常に左足よりも不明瞭だった。そちらには体重をあまりかけていなかった。なぜか?彼が足を引きずっていたからだ。つまり、彼は脚が不自由だ」

「しかし左利きは」

「君も捜査した外科医の記録した傷の状況に興味を引かれただろう。打撃はすぐ背後から加えられた。それなのに左側に傷がある。さあ、それが左利きの男以外にありえるだろうか。父と息子が話している最中、その男は木の後ろに立っていた。彼はそこでタバコさえ吸っている。僕は葉巻の灰を見つけた。僕にはタバコの灰に関する専門知識があるので、インド葉巻だと断言することができた。知ってのとおり、僕はこのテーマについて幾らか研究し、そして140種類のパイプ、葉巻、紙巻タバコの灰に関するちょっとした研究論文を書いている。灰を見つけた後、僕は辺りを見回し、苔の間からその男が捨てた吸い差しを発見した。それはロッテルダムで巻かれた品種のインド葉巻だった」

illustration

「葉巻のホルダーは?」

「吸い差しの端に噛んだ跡がないことが分かった。だからホルダーを使ったのだ。端は噛み切られてはおらず、切り捨てられていた。しかしその切り口は綺麗ではなかった。だから鈍いペンナイフだと推理したのだ」

「ホームズ」私は言った。「君はこの男の周りにかけた網を手繰り寄せたな。この男が決して逃げられない。そして君は縛り首にされた綱を切るのと全く同じように、無実の人間の命を救った。これら全ての事が指し示している方向が分かったよ。犯人は…」