コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「さあ着いた!」ホームズは三人が順に部屋に入る時、明るく言った。「この天気には暖炉に限りますよ。寒そうですね、ライダーさん。その籐椅子にお座り下さい。私はあなたの用件に取り掛かる前に、ちょっと室内履きに履き替えます。さてそれでは、あの24羽のガチョウがどうなったかを知りたいのでしたね?」

「そうです」

「というよりも、私の考えでは、ガチョウは一羽ではないですかな。もしかして、あなたが興味を持っているその一羽のガチョウは、白くて尾羽に黒の縞があるものではないですか」

ライダーは興奮に震えた。「ああ」彼は叫んだ。「それがどこに行ったか教えていただけますか?」

「ここに来た」

「ここに?」

「そうだ。そして非常に変った鳥だと分かった。君が興味を持つのも不思議ではない。それは死んでから卵を産んだ。見たこともないくらい美しく輝く小さな青い卵をだ。僕はそれをこの博物館に収納している」

訪問者はふらふらと立ち上がり、右手でマントルピースを握った。ホームズは金庫の鍵を開け、ブルーカーバンクルを取り上げた。それは星のように輝いており、冷たく光り輝く沢山の光点を放っていた。ライダーは引きつった顔で立ったまま見ていた。それを自分の物だと言おうか、そうでないと主張しようか決められないまま。

「遊びは終わりだ、ライダー」ホームズは静かに言った。「しっかりしろ、おい、暖炉の中に倒れるぞ。椅子に戻るのに手を貸してやってくれ、ワトソン。こんな大罪を犯して逃げ切れるほど肝が据わった奴ではない。一口ブランデーを飲ませてやってくれ。さあ、ちょっとは人心地がついただろう。なんてちっぽけな野郎だ!」

一瞬、彼はよろめいてほとんど倒れる寸前だった。しかしブランデーでライダーの頬に赤みが差し、座ったまま、怯えきった目でホームズを見つめた。

「僕はほとんど全ての手がかりを手中にしているし、今後裁判で必要となりうる全ての証拠も持っている。だから、お前から訊かねばならないことはほとんどない。とはいえ、そのごく僅かのことまではっきりさせて、この事件を完璧に解決するのも悪くないだろう。ライダー、お前はこのモーカー伯爵夫人の青い宝石について前から知っていたな?」

「キャサリン・キューサックから聞いたんです」ライダーは押しつぶされそうな声で言った。

「知っている。夫人の侍女だな。突然、こんな手軽に富が得られるという誘惑に、お前は逆らえなかった。お前より以前のもっとまともな人間でさえ、同じだった。しかし、お前がとった手段は極めて悪質だ。ライダー、お前には非情な悪党の素質があるように思える。お前は配管工のホーナーという男には前科があり、かっこうの容疑者になるだろうと分かっていた。そこで、お前は何をしたか。お前と共犯のキューサックはちょっとした仕事を夫人の部屋で作り、そしてホーナーが呼ばれるように細工した。それから、ホーナーが帰ると宝石箱を漁って警報を発し、不運な男を逮捕させた。それからお前は…」

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ライダーは突然絨毯の上にひれ伏して、ホームズの膝を掴んだ。「お願いですから、お慈悲を!」ライダーは叫んだ。「私の父のことを考えてください。母のことを。両親の心は張り裂けるでしょう。これまで悪いことはしませんでした。二度としません。誓います。聖書に手を置いて誓います。おお、裁判にかけないで下さい。お願いします。決して!」

「椅子にもどれ!」ホームズは厳格に言った。「ここで、恐縮して土下座するのは結構だが、身に覚えのない犯罪の容疑をかけられて被告台に立たされている哀れなホーナーの身を思ったことがあるのか」

「逃げます、ホームズさん。この国を出ます。そうすればホーナーに対する告訴は取り下げられるはずです」

「フン!その話は後だ。その後の行動について、正直に聞かせてもらおう。どうやってあの宝石がガチョウに入ったか、どうやってガチョウが売りに出されたか、真実を語れ。お前が自分の身を守りたければ、それしか望みはない」