コンプリート・シャーロック・ホームズ
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夕食が終り、食器が片付けられるまで、ホームズはこの事件について話さなかった。彼はパイプに火をつけ、スリッパを履いた足を心地よい暖炉の炎に向けていた。突然彼は時計に目をやった。

「進展がありそうだ、ワトソン」

「何時?」

「すぐだ、 ―― 数分以内にだ。君は僕がさっき、スタンレー・ホプキンズにちょっとつれない態度をとったと思っているだろう?」

「君の判断力を信頼しているよ」

「聡明な返答だな、ワトソン。僕が知る事は私的で、ホプキンズが知る事は公的だという風に考えるべきだ。僕には私的な判断を加える権利があるが、彼にはない。彼はすべてを公にしなければならない、さもなくば自分の仕事に対する背信となる。疑問がある事件で、僕は彼を辛い立場に立たせたくない。だから僕はこの事件に対する自分の気持ちがはっきりするまで情報を控えたんだ」

「しかし何時はっきりするんだ?」

「その時がやって来た。君は、注目すべきドラマのラストシーンに立ち会うことになるんだ」

階段から音が聞こえてきた。そして扉が開かれ、これまでその扉を通った中でも特に男らしさの見本のような人物が入ってきた。彼は金髪の口髭に青い目の、非常に背の高い青年だった。熱帯の太陽に焼けた肌、そして弾むような足取りは、その巨体が強さと同時に身の軽さも備えていることを示していた。彼は後ろで扉を閉め、その後彼は両手を握り締め荒々しく息をして、溢れる激情をぐっとこらえて立ち止まった。

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「座れ、クロッカー船長。僕の電報は受け取ったのか?」

訪問者は物言いたげな目を私達に順に向けながら肘掛け椅子に沈み込んだ。

「電報は受け取った。だから言った時刻に来た。事務所まで来たのは聞いた。逃げる方法はない。最悪の事を聞こう。俺をどうするというのか?逮捕するのか?はっきり言ってくれ!そこに座って猫が鼠をいたぶるような事はするな」

「葉巻を差し上げてくれ」ホームズが言った。「それを吸って、クロッカー船長、落ち着きを無くさないようにしてくれ。もし君を普通の犯罪者だとみなしていれば、僕はここに座って君と煙草なんか吸っていないよ。それははっきり分かるはずだ。率直に僕に話せば、何かいい結果になるかもしれない。もし僕を騙せば、君は終わりだ」

「俺にどうして欲しいんだ?」

「本当の話をすることだ。昨夜アビ屋敷で起きたすべてのことを、 ―― 本当の話だ。いいか、何も付け加えず、何も隠さずだ。僕は既にかなりの事を知っている。もし君がほんのわずかでも嘘をつけば、僕はこの警笛を窓から吹く。そうすればこの事件は永遠の僕の手を離れる」

船員はすこし考え込んだ。その後彼は日に焼けた大きな手で腿を打った。