コンプリート・シャーロック・ホームズ
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宵闇が迫る中、黄色い四角の明かりが三つ、頭上で輝いていた。

「三羽の鳥は皆、巣にいますね」ホームズは見上げながら言った。「おやおや!あれは何だ?一人は落ち着きがないようですね」

それはインド人学生だった。黒い影が突然ブラインドに映った。彼は部屋の中をセカセカと行ったり来たりしていた。

「彼らの部屋をちょっと覗いてみたいんですが」ホームズは言った。「できますか?」

「お安いご用です」ソームズは答えた。「ここの一揃いの部屋は大学寮の中で一番古いので、見学に来る訪問客も珍しくありません。来て下さい。私が自分で案内しましょう」

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「名前は出さないでください!」ホームズは私達がギルクリストの扉をノックしている時言った。亜麻色の髪の細身で長身の青年が扉を開けた。彼は我々の用件を知ると歓迎した。部屋の中には確かに中世住居の興味深い部分があった。ホームズはその一つに非常に魅了されて、ぜひ手帳に描かせて欲しいと頼み、鉛筆を折り、住人から鉛筆を借りざるをえなくなり、最後には自分の鉛筆を削るためにナイフを借りた。インド人の部屋でも、まったく同じ奇妙な事故が起こった。このインド人学生は寡黙で背が低い鷲鼻の人物で、うさんくさそうに我々を見ていた。そしてホームズの建築学の勉強が終わりになった時、目に見えて嬉しそうだった。どちらの場合でも、ホームズが探していた手がかりを見つけたかどうか分からなかった。三番目だけは訪問が実現しなかった。ノックをしても外側の扉が開く気配はなく、唯一の反応は扉の向こうから、激しくがなり立てる声が聞こえてきただけだった。「誰かは知らんが、とっとと失せろ!」怒号がとどろいた。「明日は試験だ、誰にも用はない」

「がさつな奴だ」案内人は我々が階段へと引き下がった時に怒りに顔を真っ赤にして言った。「もちろん、彼はノックしたのが私だと気付いていませんでしたが、それでも彼の態度は非常に無礼です。そして実際、この状況下ではちょっと怪しい行動だ」

ホームズの返事は変わったものだった。

「あの生徒の正確な身長は分かりますか?」彼は尋ねた。

「正直言って、ホームズさん、正確には分かりません。彼はインド人学生よりも背が高いのですが、ギルクリストほどは高くありません。5フィート6インチくらいだと思います」

「それは非常に重要です」ホームズは言った。「さて、ソームズさん、それでは失礼します」

ソームズは腰を抜かしそうになり、絶望して大きな叫び声を上げた。「待ってください、ホームズさん、こんなに突然、本気で私を見捨てるつもりではないでしょうね!あなたは状況が分かっていません。明日は試験です。私は今夜、断固とした行動をとる必要があります。もし試験用紙が一枚でも流出していれば、試験が行われる事を認めることはできません。この状況は何とかしなければならないんです」

「そのままにしておきなさい。僕は明日の朝早くやって来て、この問題についてお話しします。その時、どういう手段をとるべきか、指示できるかもしれません。それまでの間、何も予定を変更しないでください、 ―― 何一つです」

「分かりました、ホームズさん」

「大船に乗ったつもりでいてください。きっとこの難問を解決する方法が何か見つかります。この黒い粘土を持っていきます、それから鉛筆の削りかすも。さようなら」

我々は暗い中庭に出た時、もう一度窓を見上げた。インド人はまだ部屋を行ったり来たりしていた。他の生徒の姿は見えなかった。

「さあ、ワトソン、どう考える?」ホームズは大通りに出てきた時、尋ねた。「面白い謎当てゲームだな、 ―― 三枚カード騙し、のようだ。違うかな?三人の男がいる。そのうちの一人に違いない。君がカードを一枚選べ。どれを選ぶ?」

「一番上の口の悪い男だ。経歴が一番悪い人物だ。しかしインド人もずるそうな奴だな。なぜ部屋をずっと歩き回ったりしているんだろう?」

「何も意味はないな。何かを暗記しようとする時、そうする人間はたくさんいるよ」

「私達を妙な目で見たよ」

「もし次の日の試験の準備をしている時、しかも一瞬でも惜しいという時、見知らぬ人間が連れ立ってやって来たら君だってそんな目で見るだろう。いや、僕はそれは何でもないことだと思う。鉛筆も、ナイフも、 ―― 全て納得できた。しかしあの男は謎だな」

「誰のことだ?」

「いや、使用人のバニスターだ。何を考えているんだろうな?」

「彼は全く実直な人間のような印象を受けたが」

「僕も同感だ。それが分からないところだ。なぜ全く実直な男が、・・・・よし、よし、大きな文具店があるぞ。ここで調査を開始しよう」

町で主な文具店は4店だけだった。それぞれの店でホームズは鉛筆の削り滓を見せて、高値を出すから同じものが欲しいと言った。どの店も注文は出来ると言ったが、普通の大きさの鉛筆ではないため、在庫がある可能性はほとんどなかった。ホームズはこの失敗にも落ち込む様子は見せず、ちょっとおどけたように諦めた様子で肩をすぼめた。

「だめだったな、ワトソン。これは非常に決定的な唯一つの手がかりだったが、成果がなかった。しかし僕はこれなしでも十分に事件を再構成できると確信を持っている。おやおや!ワトソン。九時近くだ。宿屋の女主人がグリンピースは7時半だと話していたな。ワトソン、絶え間ない喫煙と不規則な食事時間で君は追い出されると思うな。そして僕も君と破滅を共にする事になるな。しかしその前に、イライラした個人指導教師に不注意な使用人、加えて新進気鋭の三人の学生たちが絡むこの事件を解決してみせる」

ホームズはこの日それ以上、事件に触れることはなかった。彼は遅くなった夕食の後、長い間考え込んで座っていたが、朝八時、私が身支度を整えた直後に部屋へやって来た。